ABOUTASSETMANAGEMENT
アセットマネジメントとは
アセットからの価値を
実現化する組織の調整された活動
アセットは、組織の活動の基礎となるものです。
行政機関でも民間企業でも、組織は多くのアセットを保有・管理し、そこから多くの便益を生み出します。
しかしながら、アセットは無限ではなく、適切に管理されなければ、組織が期待する便益をもたらさず、損失を与える可能性もあります。
1. アセット・アセットマネジメント・アセットマネジメントシステム
ISO 55000 シリーズは3つの用語が登場します。
それは、「アセット」、「アセットマネジメント」、「アセットマネジメントシステム」の3つの用語です。
3つの用語を音読するといずれも「アセット」を含んでいるので同じような言葉のようですが、それぞれの意味は大きく異なります。
ISO 55000
シリーズでは、この3つの用語の意味の違いをしっかりと理解することからがスタートです。
ISO 55000 シリーズ3つの用語
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アセットマネジメントの重要な用語間の関係
2. アセットマネジメントとは何か
アセットは、組織の活動を行う上で基礎となるものです。
行政機関でも民間企業でも、組織は多くのアセットを保有・管理し、そこから多くの便益を生み出しています。
しかし、アセットは適切に管理されなければ、組織が期待する便益をもたらさず、かえって損害を被りかねません。
1980
年代に米国では「荒廃するアメリカ」という言葉に象徴されるように、社会インフラに対する不十分な維持補修が原因となって、社会インフラの深刻な老朽化が問題となりました。
長年にわたり、社会インフラの老朽化を放置するという欠陥が招いたこの危機的な状況を改めるため、インフラを国民の資産(アセット)として位置づけ、計画的かつ戦略的に、アセットの価値を維持し、高める活動として「アセットマネジメント」の考え方が生まれました。
三要素の最適なバランス
アセットマネジメントの国際規格であるISO 55000 シリーズでは、アセットマネジメントとは「アセットからの価値を実現化する組織の調整された活動」と定義されています。組織がその目標を達成するために、アセットからより大きな価値を生み出せるよう、組織の様々な活動を調整すること、これがアセットマネジメントです。
アセットマネジメントは、メンテナンスという維持管理の概念よりも積極的なアセットのライフサイクルに亘り、価値を創造していくという積極的な活動と言えます。
ISO 55000 シリーズでは、アセットからの価値の創出には、「コスト」、「リスク」、「パフォーマンス」の三要素の最適なバランスを達成することが重要であるとされています。
少し難しい表現ですが、アセットマネジメントとは、リスクに基づいたアプローチを使って、組織の目標を、アセットに関連する意思決定、計画及び活動に変換するものであるとも言えます。
ISO が提唱するアセットマネジメントシステムのイメージを示したのが次の図です。
組織のアセットマネジメントを予算管理の観点から考えると、単年度の予算計画を立て、現場を動かす小さなPDCA サイクルがあります。そして、中期的な予算計画や戦略的な計画を立案する中位のPDCA サイクル、長期的な視点からライフサイクルに亘る予算計画を立案する大きなPDCA
サイクル、というように、階層的なマネジメントサイクルを有しています。
ISOが規定するアセットマネジメントシステム
ISO が規定するアセットマネジメントシステムは、このマネジメントサイクルを包含しつつ、マネジメントサイクル自体のパフォーマンスを評価し、継続的に改善することを求めています。
AM: アセットマネジメント、AMS: アセットマネジメントシステム
3. 国際標準 ISO 55001 に基づくアセットマネジメント
アセットマネジメントの国際規格はISO 55000 シリーズです。
ISO 55000 シリーズは、ISO 55000、ISO 550001、ISO 55002 の3 つの規格から構成されています。
このうちISO 55001 の認証を取得することによって、その組織がISO に規定された手法に則ってアセットマネジメントに取り組んでいる姿勢を国内外に示すことができます。
そして、異なる組織間において、規定に基づく共通の認識を持ち、円滑なコミュニケーションを図ることも可能となります。
また、アセットマネジメントに携わる個人についてみれば、WPiAM が行うCAMA 資格やJAAM が認定するJCAM 資格の取得することで、ISO 55000
シリーズなどのアセットマネジメントに関する知識を獲得し、アセットマネジメントの実践に活かすことができます。
なお、認証に関するISO 55000 シリーズであるISO 55000、ISO 55001、ISO 55002 は、2017 年8 月にJIS Q 55000、JIS Q 55001、JIS Q 55002 としてJIS 化されています。
その他に、ISO
55010(「アセットマネジメントにおける財務および非財務の機能の整合に関するガイダンス」)などの参考となるガイドラインが発行済及び作成中です。
ISO 55000 シリーズ(JIS Q 55000 シリーズ)の構成
- ISO 55000(JIS Q 55000)
- アセットマネジメントー概要、原則及び用語
- ISO 55001(JIS Q 55001)
- アセットマネジメント ー マネジメントシステムー要求事項
- ISO 55002(JIS Q 550021)
- アセットマネジメント ー マネジメントシステムーISO 55001 の適用のための指針
ISO 55000 シリーズの規格策定の経緯
ISO におけるアセットマネジメントの国際規格の提案は、2009 年に、英国規格協会(BSI:British Standard Institution)によりなされました。
この提案を受けて、ISO にアセットマネジメントの規格策定のためのプロジェクト委員会PC251(PC:Project Committee)が発足し、ISO に定められた規格策定プロセスに従って検討がなされ、2014 年1
月にアセットマネジメントに関する国際規格であるISO 55000 シリーズ規格が発行されました。
PC251 はその後、常設のTC251 専門委員会(TC:Technical Committee)へと移行し、発行された規格のメンテナンスや新たな規格の整備、アセットマネジメントの普及や発展に資する諸活動を行っています。
TC251 の活動の詳細や最新の情報については、ISO のTC251
ホームページを参照ください。
4. ISO 55001 の規格要求について
アセットマネジメントの要求事項
アセットマネジメントの要求事項が定められているISO 55001(JIS Q 55001)は、図のように箇条4から箇条10の7つの箇条から構成されています。
具体的な箇条要求は以下の通りです。
- 箇 条
- 細 箇 条
-
4
組織の状況Context of the organization
-
- 4.1
- 組織及びその状況の理解
- 4.2
- ステークホルダーのニーズ及び期待の理解
- 4.3
- アセットマネジメントシステムの適用範囲の決定
- 4.4
- アセットマネジメントシステム
-
5
リーダーシップLeadership
-
- 5.1
- リーダーシップ及びコミットメント
- 5.2
- 方針
- 5.3
- 組織の役割、責任及び権限
-
6
計画Planning
-
- 6.1
- アセットマネジメントシステムに関するリスク及び機会への取り組み
- 6.2
- アセットマネジメントの目標及びそれを達成するための計画策定
- 6.2.1
- アセットマネジメントの目標
- 6.2.2
- アセットマネジメントの目標を達成するための計画策定
-
7
支援Support
-
- 7.1
- 資源
- 7.2
- 力量
- 7.3
- 認識
- 7.4
- コミュニケーション
- 7.5
- 情報に関する要求事項
- 7.6
- 文書化した情報
-
8
運用Operation
-
- 8.1
- 運用の計画策定及び管理
- 8.2
- 変更のマネジメント
- 8.3
- 外部委託
-
9
パフォーマンス評価Performance evaluation
-
- 9.1
- 監視、測定、分析及び評価
- 9.2
- 内部監査
- 9.3
- マネジメントレビュー
-
10
改善Improvement
-
- 10.1
- 不適合及び是正処置
- 10.2
- 予測対応処置
- 10.3
- 継続的改善
アセットマネジメントの重要な要素間の関係
注記:点線で囲った部分は、アセットマネジメントシステムの境界を示す
5. アセットマネジメントの重要性
我が国では、高度経済成長期に整備された社会インフラや民間分野のアセットの老朽化が進行しつつあります。
耐用年数を迎えたアセットの維持・更新需要が増加する一方、少子高齢化に伴う税収の減少や社会保障費用の増加などのため、社会インフラ整備への投資の制約も見込まれます。
このような状況の中で、アセットを効率的に維持管理する手法として、アセットマネジメントの重要性が認識され、社会的に大きな注目を集めています。
アセットマネジメントの重要性は、これだけに止まりません。
ISO 55000
シリーズの適用によって、アセットマネジメントシステムを構築することによって、技術部門と財務部門とが共通の目的・目標に向かって、計画的な活動と効率的な予算配分を行うことが期待されています。
こうしたことは、社会インフラ事業の包括委託や民間活用(PFI、コンセッション等)など、民間の事業体が公共の便益に資する事業を行う場合にも重要になります。
多岐にわたる利害関係者の期待に応え、理解を得るためには、「コスト」、「リスク」、「パフォーマンス」の最適なバランスを実現し、アセットマネジメントの共通基盤(プラットフォーム)を構築していくことが重要になってきています。
このことは、アカウンタビリティの向上にも役立ちます。
アセットマネジメントの重要性
6. アセットマネジメントシステム導入の効果
アセットマネジメントにアセットマネジメントシステムを導入することで、下記のような効果が期待されます。
- トップマネジメント(経営層)がアセットマネジメント方針を示すことでアセットマネジメントに従事する人々の間で共通認識が醸成されます。
- アセットマネジメントに従事する人々の役割、責任と権限が明確になります。
- それぞれの階層、機能におけるアセットマネジメント活動に内在するリスクを事前に評価することにより、リスクを回避、軽減することができます。
- 作業手順、業務手順などを文書化することにより、属人的な意思決定を防止でき、ヒューマンエラー、手戻りが減少します。手順書などが整備されていれば、人事異動、人員交代などの引継ぎも円滑になります。
- アセットマネジメントの観点に立ったプロセス管理によって、プロセスに対する資源の割当、役割分担、アウトプットの評価を行うことができプロセスの継続的な改善を図ることができます。
- 設計図書、点検・補修履歴等を組織的に管理、記録することで、維持管理計画、予算管理、劣化予測に基づくライフサイクルコストの算定などに対するアカウンタビリティを高めることができます。
- 組織内部だけでなく、受託者(サービス提供者)も共通のプラットフォーム上で業務が展開されます。
- アセットオーナー及びサービス提供者の双方がISO 55001 を理解し、ISO 55001 を共通基盤(プラットフォーム)とすれば、多様な主体の意思疎通は円滑になり、平常時だけでなく、緊急事態への対応も適切に行うことができます。
- ISO 55001 の要求事項は、アセットオーナーとサービス提供者が、点検・調査の情報、維持管理等のコストに関する情報、ヒヤリハットなどのリスクに関する情報などを共有し、「コストとリスクとパフォーマンス」の3 要素のバランスを保つことができます。
7. アセットマネジメントシステム(ISO 55001)と品質マネジメント(ISO 9001)との違い
アセットマネジメントシステム(ISO 55001)と品質マネジメントシステム(ISO 9001)との違いを考えてみましょう。
ISO 9001 は、主に顧客(発注者)とサービスを提供する者(受注者)の二者関係で成立するマネジメントシステムです。
ISO 9001
は、顧客から受注した業務について、顧客などからの要求事項(契約条件・法令順守など)を満足し、求められる品質を確保した成果物(製品、報告書など)を納めるためのマネジメントシステムといえます。
このため、ISO 9001 を導入するか否かは、顧客がその構築をどの程度求めているかによるところが大きいといえます。
一方、ISO 55001 は、アセット(道路、ダム、上下水道、建物、プラント、情報など)に焦点を当て、アセットオーナーとサービス提供者が協働して、対象となるアセットを健全な状態に保ち、時代の要請に応え、アセットの価値を最大化しようとするマネジメントシステムといえます。
アセットマネジメントを展開し、そこから得られた知見などをアセットマネジメントシステムの改善につなげていくというPDCA サイクルを回し、スパイラルアップしながらアセットマネジメントを高度化していきます。
こうしたことから、ISO 55001 の導入の要否は、組織のマネジメントの高度化の視点から能動的な判断となる傾向にあります。
このようにマネジメントシステムの導入、構築の判断が、他動的である傾向の強いISO 9001 と能動的であるISO 55001 に大きな違いがあると考えられます。
特に建設分野の組織において、ISO 9001 の導入の要否は発注者の入札条件や経営事項審査の評価基準に左右される傾向にあり、一方ISO 55001
の導入の要否は将来を見据えた戦略的な経営方針から能動的に判断する傾向にあります。