第1回 JAAM 研究発表会 講評

第1回 JAAM 研究発表会は終了しました。

以下はJAAM 賞選定に当たっての講評です。

公表情報に基づく自治体管理橋梁の地域格差に関する一考察
久田 真 氏(東北大学)

この発表は、直接アセットマネジメントを論じたものではない。我が国の地方公共団体が管理する橋梁の住民負担に関する地域格差の実態を簡単な指標で表し、これらの橋梁のアセットマネジメントのあり方について、一般の人々に考えるきっかけを与えるものである。もちろん、橋梁は一つの例にすぎない。それぞれの地方自治体に居住する人口をその自治体が管理する橋梁で除することで、一つの橋を支える人口(1橋人口)を算出するという方法は、他の社会資本にも容易に適用可能な手法である。経済効率性のみから判断すれば、1橋人口の小さい橋は多額の費用をかけてまで残すべきではない。しかし、橋がなくなるとますますコミュニティは消滅へと向かうことになる。個々の地方公共団体のアセットマネジメントのあり方はもちろん、老朽化する社会インフラに対する国やコミュニティの関わり方についても考えさせる優れた発表であった。

JAAM 賞選定委員会委員長 藤木 修

米国のインフラ包括管理の現状と我が国への示唆
水野 高志 氏(八千代エンジニヤリング株式会社)

この発表は、米国の多くの州の道路維持管理業務で行われている性能規定型維持管理契約(PBMC: Performance-Based Management Contract)の現状を紹介し、PBMC の我が国への適用について考察・提言を行ったものである。米国の代表的なインフラ維持管理企業であるHDR/ICA 社を、発表者が直接訪問して得られたPBMC の具体的な情報をもとに、さまざまな観点から考察が行われている。なかでも、民間事業者の視点からPBMC を成功させるためのポイント、受託者側チーム組成の考え方、我が国における取組のポイントが分かり易く整理されているところが、本論文の真骨頂といえる。さらに、組織と現場のマネジメントサイクルの両輪が連動して回るというマネジメントの基本に立ち、英国の事例も引用しながら、受・発注者が協力してISO 55001 を運用することが重要との指摘は、我が国の現状に鑑みて誠に正鵠を射るものと高く評価された。

JAAM 賞選定委員会委員長 藤木 修

仙台市下水道事業における継続的改善の仕組み
水谷 哲也 氏(仙台市建設局下水道事業部)

発表者は、仙台市の下水道事業で2006 年からスタートしたアセットマネジメントの導入、運用、改善という一連の取組みを一貫して指導してきた。今では、仙台市の下水道事業は、日本国内はもちろん上下水道の国際社会においても、アセットマネジメントで名声を博するまでとなっている。この発表では、仙台市下水道事業においてパフォーマンスの評価と改善のための実行された次の5つの方法、即ち、(1) 指標を用いたパフォーマンス評価、(2) 内部監査、(3)ISO 審査、(4) メトリックベンチマーキング、(5) プロセスベンチマーキングについて、具体的に紹介されている。(1) ~ (3) は良く知られた方法であるが、(4) と(5) は国内では馴染みが薄く、貴重な情報といえる。特に(5) については、仙台市が、アセットマネジメントの成熟度に関する国際的なプロセスベンチマーキングAMCV に参加した経験と改善への効果が詳しく紹介されている。この発表の抜きん出た秀逸性、独創性は、上記の5 つの方法の得失を手際よく比較、分析したところであろう。実践者でなければ発見できない有用な知見が数多く盛り込まれた優れた発表であった。

JAAM 賞選定委員会委員長 藤木 修

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